遠野物語ファンタジーライブラリー: 第46~50回
第46回「遠野猫譚」
遠野遺産第160号に認定されての記念公演、第46回の舞台は、「聴耳草紙」94番、虎猫と和尚を題材としたどたばた喜劇。
縄張りをめぐって対立する猫・トラとブチや、猫の言葉を理解できる貧乏寺の良寛和尚から手柄を奪おうとたくらむ黄金和尚。大長者・勘衛門の愛娘サチに思いを寄せる幼なじみの友吉など、ユニークな登場人物の思惑が入り乱れ、勘違いにつぐ勘違いによって巻き起こる騒動が面白おかしく展開された。
新型コロナウイルス感染症が猛威を振るう中、キャストやスタッフ、演奏など参加人数を例年の3分の1に減らし、練習日を減らし、シンプルな舞台セットを製作。コロナ禍の逆境にも、「観る人にいいものを届けたい!」という参加者の意気込みと、それを応援してくださる方々の思いが、感動の舞台を創り上げた。
なお、今回の公演は文化庁からの補助を受けるとともに、2回目の公演を遠野テレビで生放送し、全公演を入場無料にした。さらに、ホワイエに撮影スポットを設けたり、twitterで感想を募るなど、若い世代を巻き込む工夫にも取り組んだ。
第47回「きつねの絵筆」
第47回きつねの絵筆は、前年に引き続き新型コロナウイルス禍での稽古・制作を余儀なくされた。
前年以上の努力を重ね、キャストの稽古日を増やし、演奏陣の増員も図った。例年の活動に近づけようともがいたが、キャスト・スタッフともに様々な葛藤に苛まれ、厳しく苦しい活動の日々が続いた。
逆境の中でも、「良い舞台を創りたい」という熱い思いは参加者全員の心に燃え続けていた。しかし、その思いとは裏腹に、市内の感染状況は拡大の一途を辿った。稽古場・作業場のある遠野市民センターに利用制限がかかり、活動は次第に窮地に追い込まれていった。
関係者一同、涙を呑んでの苦渋の決断だった。この状況下では、「遠野物語ファンタジー」を最良の形で上演することは不可能だと、痛恨の思いで判断せざるを得なかった。ファンタジー47年の輝かしい歴史で初めて、公演中止を余儀なくされた。
本来公演初日であったはずの2月19日(土)、開演予定時刻の18時30分から、関係者を招いて遠野市民センター大ホールでの打ち上げの会(締めの会)が行われた。舞台上で参加者それぞれが胸に秘めた悔しさと無念さを吐露しつつ、来年こそはと、次なる公演への熱い思いを語り合った。
第48回「きつねの絵筆」
第48回市民の舞台では、前回新型コロナウイルス感染症の蔓延防止のためやむなく中止せざるを得なかった作品「きつねの絵筆」を、ついに発表することができた。この間、関係者全員が夢の実現を諦めず、粘り強く準備を重ねてきた努力が実を結んだ瞬間であった。
多賀神社に住むいたずらキツネの松葉。人間に悪さをしては食べ物をせしめ、腹を満たしていた。ある日、供養絵額の絵師・染慈が通りかかる。松葉はいつものように悪戯を試みるも見破られる。化かす松葉に、見破る染慈。化かしているのか、化かされているのか。次第に心を通わせ、松葉は誰かを喜ばせることにうれしさを覚える。「人のために何かをする」。松葉の心情は変化していた。
一緒に絵を描くと約束した日、松葉は染慈の家へ向かう。しかし、布団の中には冷たくなった染慈が横たわっていた。松葉が染慈にあげたキツネの絵筆が死期を早めたのかもしれない…。悔やむ松葉。悲しむ松葉を、キツネの仕業と思い込んだ村人たちが痛めつける。松葉は命からがら逃げ、染慈を弔うために供養絵を描き上げ、墓前へ捧げる…。
幾多の困難を乗り越え、2年ぶりに実現した待望の舞台には、市民総勢250人の情熱が結集した。キャストの熱演、舞台裏で支え続けたスタッフの献身的な努力が実を結び、感動の渦に包まれた舞台となった。
第49回「卯子酉の淵」
第49回の作品は、「遠野物語拾遺」35話に登場する卯子酉神社を舞台に、主人公ミツと利一の切ない恋を描いた物語。
将来を誓い合ったミツと利一。両家の確執に阻まれ、二人は結婚できるよう縁結びの神「卯子酉神社」に願いを掛け続けた。ある日、ミツが盗賊に襲われ行方不明になる。利一はミツを探しに出かけるが、実際にミツを助け出したのは幕府の役人だった。ミツが無事に家に帰ったことを知らぬまま、利一は懸命に探し続ける。一方、帰宅したミツは帰ってこない利一を案じていた。そんな折、父からミツは「利一はもうこの世にいない」と告げられる。絶望に打ちのめされたミツは、卯子酉の淵に身を投げる。それを知った利一は、愛するミツを救おうと躊躇なく淵に飛び込んだ。
舞台は、市民総勢250人が集まり、約5か月の歳月をかけて制作された。演技に熱が入るキャストと、彼らを支え続けたスタッフたちが創り上げた舞台は、観客を深い感動の渦に巻き込んだ。
第50回「遠野はじまり物語2025~Origin of Tono~」
これまでの市民の舞台は、1作品に1つの物語で構成されていたが、第50回記念公演では、「遠野物語」に登場するさまざまな物語をモチーフに脚本化された。過去に公演した作品も登場し、多くの物語を織り込んだストーリーとなった。
一人の若者が鮭の背に乗り、猿ヶ石川をさかのぼり大きな湖にたどり着く。アマネノカミ、クニエノカミより未開の地への楽土建設の命を受けた太郎のヌシだ。山谷、松崎、平倉、鞍迫、宮守、栃内、笹谷の七人のヌシとメガミに支えられ、物の怪、あやかしを従えて、美しい楽園は着々と完成に向かう。最後の仕上げに、人間を迎え入れるまでは…。翻弄される太郎の采配は、はたしてどこへ向かうのか―。
「遠野はじまり物語2025~Origin of Tono~」と題された第50回記念公演は、半世紀にわたる市民の情熱と創造力が結実した奇跡の舞台となった。300人を超える市民が出演者や裏方として参加し、世代を超えて受け継がれてきた遠野の魂を体現した。舞台に立つ出演者と舞台を支えるスタッフ一人一人の表情には、先人たちへの感謝と未来への希望が満ち溢れていた。観客席からは惜しみない拍手が送られ、会場全体に深い感動の波が広がった。
50年という長き歳月を経て、市民たちの手で紡がれてきた遠野物語ファンタジー。この記念すべき公演は、遠野の豊かな文化遺産と現代の創造性が融合した、新たな歴史の1ページとなった。
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遠野市民センター/遠野物語ファンタジー制作委員会事務局
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