重要文化財旧菊池家住宅(伝承園内)について
旧菊池家住宅は18世紀中頃までに建立された曲り家です。当初は曲り部分を持たない直家(すごや)でしたが、建立後間もない時期に曲り部分の馬屋を増築し、現在の曲り家の姿となりました。直家から曲り家への発生過程をうかがうことができる貴重な遺構として、昭和51年(1976)2月3日に国重要文化財に指定されました。もとは遠野市小友町13地割にあり菊池氏の所有でしたが、昭和52年(1977)に遠野市が公有化し、昭和53年(1978)に現在の遠野市土淵町伝承園内に移築し観光施設として活用しています。平成26年(2014)には、移築修理以来36年ぶりに茅葺屋根の全面葺替え工事を行い、移築当時の美しい茅葺屋根に蘇りました。
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葺替え工事が完了した旧菊池家住宅
保存修理工事(茅葺屋根の葺替え)について
解体移築以降、屋根の状況に応じて差茅をしながら維持管理してきましたが、移築後36年が経過し屋根の傷みが激しくなったことから、文化庁の国庫補助事業を導入して平成26年(2014)7月~11月に保存修理工事(茅葺屋根の葺替え)を実施しました。葺替えに使用された茅材は、大部分が遠野市内で生産されたものです。工事中は内部公開を休止していましたが、12月7日に伝承園で葺替え完了祝賀イベントを開催し、内部公開を再開しました。
1 工期 平成26年7月7日~平成26年11月20日
2 設計監理 公益財団法人文化財建造物保存技術協会
3 施工 有限会社菊栄工務店(協力 有限会社熊谷産業)
4 事業費 40,945,291円(国庫補助対象経費・設計監理施工事務費含む)
葺替え前の旧菊池家住宅
軒付けから葺いていく
葺替えに使われた遠野産の茅
順調に工事が進んだ
葺替え作業にあたる職人
芝棟の芝も貼り替えられた
青空に映える真新しい茅葺屋根
工事が完了した旧菊池家住宅
竣工を祝って行われた餅まき
建造物の概要
1 名称 旧菊池家住宅(旧所在 岩手県遠野市小友町)
2 所在地 岩手県遠野市土淵町土淵6地割
3 構造形式 桁行20.3m、梁間9.1m、南面突出部(曲り部分) 桁行8.6m、梁間7.6m、寄棟造、茅葺
4 主要寸法
区分 |
摘要 | 寸法 | |
主屋 | 曲り部分 | ||
桁行 |
桁行両端柱間真々 |
20.348m |
8.591m |
5 説明
この住宅が菊池氏の所有となったのは大正13年のことであり、もとは高橋氏の所有、ついで大沢氏、山蔭氏と伝えられてきたというが、詳しいことはわからない。住宅の建設年代についても直接の資料を欠くが、他の民家との形式手法の比較から18世紀中頃を降らぬものと思われる。
建物は曲り家を南面し、桁行21m、梁間8.6mの主屋部に桁行8.7m、梁間7.7mの曲り部分を突き出し、曲り家としては標準的規模を持つ。
平面は最も上手に前後二室続きの座敷があり、その下手は寝室二室及び「とおりのま」からなる三つの小屋をはさんで裏寄りの広い「じょうい」及び表寄りの「ちゃのま」がつづき、さらに「じょうい」の下手は「だいどころ」が土間に張り出す。曲り部は土間で一部分は馬屋になっている。大戸口は曲り部分内側に付いている。このような間取りは旧盛岡藩域の南部一帯の曲り家の一般的なものである。もっとも、当初は桁行九間(17.6m)の直家であり、のちに土間を一間半(2.9m)拡張するとともに曲り部分も形成されたものと推定される。しかし曲り家になったのはかなり古い時期であろう。
このように当初の姿は直家であるが、曲り家になった時点での復原をすると間取の基本は変わらないが前面を除く外面が全て大壁となり、前面も「おもてざしき」では東寄り一間のみ引違いの開口で他は壁となり、「ちゃのま」前面も開口部が片袖壁引込戸構えとなるなど閉鎖性が強くなる。
構造は上・下屋の区分があり、東北・西北(旧直家)の隅は「ひうち梁」を架けて上屋柱を省略する。小屋は叉首構造で棟束はない。仕上げは釿または「よき」である。
旧菊池家住宅は曲り家の発生過程をうかがうことのできる遺構であり、古様を示す点価値が高い。なお「ひうち梁」の使用は類例稀である。
(参考文献 (財)文化財建造物保存技術協会編 1979.2『重要文化財菊池家住宅保存修理工事報告書』岩手県遠野市)
旧菊池家住宅平面図
旧菊池家住宅断面図